認知症の音楽療法とは?期待できる効果と在宅介護での活用法
認知症の家族を介護している中で、「言葉がうまく通じない」「どう接すればよいのか迷う」と感じる場面があるかもしれません。何度も同じことを伝えなければならなかったり、理由がわからないまま拒否されたりすることもあるでしょう。
その一方で、本人の好きな音楽がかかっていると、比較的穏やかな表情が見られたり、落ち着いた様子で過ごしたりできていると感じることがあるかもしれません。音楽には、記憶や感情に働きかける力があり、認知症の方への非薬物療法の一つとして医療機関や介護の現場で実施されています。
本記事では、認知症に対する音楽療法の期待できる効果や、在宅介護の場での音楽の活用法について解説します。
目次
認知症の音楽療法とは

音楽療法とは、米国音楽療法学会によって次のように示されています。
『認定された教育課程を修了した資格保有者(音楽療法士)が、治療的な関係性の中で、個別に設定された目標を達成するために、音楽を用いた介入を臨床的かつエビデンスにもとづいて行うもの』
音楽療法は、音楽を用いたレクリエーション全般を指すのではなく、専門的な知識と技術を有した音楽療法士が、個人の目標達成のために実施する治療的な介入であり、医療的な根拠にもとづいておこなわれるものです。
医療機関や介護施設だけでなく、認知症予防の一環として地域での取り組みや、在宅療養している方の自宅への訪問、ビデオ通話を利用したオンラインでの支援など、音楽療法が提供される場所は広がっています。
介護施設の音楽療法は、集団を対象に行われるケースが一般的です。一方で、個人を対象にしたセッションを行っている医療機関もあります。音楽療法にはさまざまなプログラムがあり、音楽を聴く、歌を歌う、楽器を演奏する、リズム運動などを組み合わせた内容が実施されています。
認知症に対する音楽療法の期待される効果

音楽療法は、認知症における代表的な非薬物療法の一つです。不安・抑うつなどの行動・心理症状(BPSD)を軽減する効果が期待されています。
行動・心理症状(BPSD)の緩和
不安や焦燥感、抑うつなどは、本人にとって苦痛であると同時に、介護の難しさにも直結する症状です。
認知症疾患診療ガイドライン2017では、音楽療法は不安・焦燥感・抑うつ・自発性の低下の改善に有効な非薬物療法と位置づけられています。
記憶力や判断力に関わる前頭葉を刺激
MRIを用いた解析によると、音楽を伴う運動を継続すると、加齢や疾患によって萎縮が進みやすい前頭葉の容積が維持、あるいは増大したというデータが報告されました。リズムに合わせて体を動かす、あるいは楽器を鳴らすといった二つのことを一緒に行う刺激が脳を活性化させ、認知機能の低下を緩やかにする可能性が示唆されています。
また、本人にとって馴染み深い曲は、当時の感情や情景を呼び覚ます回想法の役割も担います。メロディを聴くことで自然に言葉が出てくるなど、自発性を引き出し、表情を豊かにするきっかけにもなるでしょう。
口腔機能維持や全身の運動効果
「歌う」ことは、深い呼吸を伴う全身運動であり、心肺機能の維持に寄与します。声を出すことは、顔の筋肉や舌を動かす体操になり、飲み込む力を維持し、誤嚥(ごえん)予防にもつながる動作です。
「楽器の演奏」は、手を動かすので、手の運動性や筋力の維持に役立ちます。笛などを吹く動作は、肺活量の維持も期待できるでしょう。
社会的参加やコミュニケーションの促進
みんなで歌を歌ったり、演奏したりする集団セッションでは、孤独感が解消され、社会的なつながりや一体感、達成感を得ることができます。
音楽療法は認知症の方とのコミュニケーション手段ともなります。音楽を通じた関わりが生活の質や生きがいの維持へとつながっていくでしょう。
在宅介護に活かせる音楽の活用法

音楽療法は音楽療法士がおこなう専門的なプログラムです。認知症疾患診療ガイドライン2017にも、音楽療法士による実施が推奨されると示されています。一方で、在宅介護の場面で音楽を取り入れることは、ご家族や介護者が認知症の方と過ごす時間を、より穏やかで豊かなものにする可能性があります。
認知症の方の在宅介護に活かせる音楽の具体的な活用法をご紹介します。
本人に馴染みのある曲を選ぶ
ご本人の記憶の中に深く刻まれている音楽を選びましょう。(Rubin ら, 1986)の研究では、10〜30歳頃に経験した出来事が、他の時期に比べて想起されやすい傾向が示されています。その頃に聴いた歌謡曲や演歌、あるいは口ずさんだ童謡などは馴染みのある曲として心に残りやすい傾向があります。
YouTube等の動画を活用する場合は、急な広告音で驚かせないよう、介護者がそばで音量の調整や操作を行うことが大切です。歌詞は文字が大きく視認性がよいものが見やすいでしょう。
本人の気分や生活リズムに曲調をあわせる
音楽を取り入れる際は、その時の本人の気分や状態に近い曲調から始めることが大切です。落ち着きがない場合は、ややテンポのある馴染みの曲から始め、徐々に穏やかな曲へ移行すると、無理なく気持ちを整えやすくなるでしょう。
睡眠前には、テンポがゆっくりで、歌詞がなく、音の変化が少ない穏やかな音楽が適しているとされています。研究では、クラシック音楽やリラックス音楽が、入眠のしやすさや主観的な睡眠の質を高めたと報告されています。
また、食事前には歌いやすい曲を選ぶことで、気持ちの切り替えとともに、口や舌を動かす食事前の準備運動として活用できるでしょう。
簡単な操作で音がなる楽器を選ぶ
複雑な操作を必要としない楽器は、自分の動作がすぐに「音」として返ってくるため、達成感を得やすく、自発的な活動を促しやすい特徴があります。また、体を動かしながら音を出すことで、エネルギーの健全な発散にもつながるでしょう。楽器を操作することで、手の運動や筋力維持も期待できます。
マラカスや鈴のように振るだけで音が鳴るもの、ハーモニカや笛のように吹くだけで音が出るもの、タンバリンやカスタネットのようにたたくと音が鳴るもの、カリンバのようにはじくだけで音が出る楽器などが在宅介護では取り入れやすい楽器です。
音楽を取り入れた生活を無理なく続けるために
認知症の在宅介護では、家族との日々の関わり方やコミュニケーションが、生活の質に大きく影響します。音楽を生活に取り入れることは、言葉でのやり取りが難しい場面でも、本人の気持ちに寄り添い、穏やかな時間を共有するための手段となり得ます。
ベルコメンバーズアプリでは、多くの方に親しまれているベルコのCMソングに合わせた「ベルコ体操」を紹介しています。この体操は、日本体育大学の三宅良輔教授の監修のもと、聞き馴染みのある軽快なリズムに合わせて全身を動かす構成となっており、日常生活の中にも取り入れやすい点が特徴です。音楽を伴う運動を1年間継続することで、判断力を司る前頭葉の容積の減少が抑えられたという報告もあります。
楽しみながら行える運動は、無理なく続けやすく、自然と体を動かす機会につながります。馴染みのある音楽を聴く・歌う、楽器を鳴らすといった関わりに加えて、音楽に合わせて体を動かす時間を、日々の生活の中に取り入れてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
The American Music Therapy Association(米国音楽療法学会)
Rubin DC, Wetzler SE, Nebes RD. Autobiographical memory across the lifespan.1986.
Pan EY,Wang W. Elements of music that work to improve sleep: a narrative review.2025;4:1707162.
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