認知症の環境づくりで混乱・悪化を防ぐには?
認知症のご家族が入院した際や、住み慣れた自宅での模様替えなど、生活環境の変化後に「急に怒りっぽくなった」「つじつまの合わない言動が増えた」と感じることはないでしょうか。
認知症の方は、環境の変化に非常にストレスを感じやすく、混乱を招く要因となります。一方で、安心できる環境づくりをおこなうことで、不安が和らぎ、症状の悪化の予防にもつながります。
この記事では、認知症の方が環境の変化で混乱・悪化する理由と、安心できる環境づくりのポイントをご紹介します。
目次
なぜ認知症の方は環境の変化で混乱・悪化しやすいのか

認知症の方は環境の変化に非常に弱く、変化がきっかけで不穏が強くなったり混乱したりと、情緒が不安定になる方も少なくありません。
ここでは認知症の方が環境の変化に弱い理由について、認知機能の障害に焦点を当てて解説します。
見当識障害による不安
認知症の症状で多いのが『見当識障害』です。見当識とは自分が今どこにいるのか(場所)、今はいつなのか(時間)を把握する能力です。
認知症になると、この見当識が障害されやすくなります。そのため、家具の配置やゴミ箱の色が変わるなどの少しの変化でも、見慣れない環境から「ここは自分の家だ」と認識しにくくなり、居心地の悪さにつながりかねません。
海馬の萎縮による記憶力の低下
脳の側頭葉にある海馬は記憶に関与する場所です。海馬は、新しい情報を短期記憶として一時的に保管し、情報を整理して大脳皮質へ送り出します。この海馬の働きにより、情報は長期記憶としてしっかり保存されます。
アルツハイマー型認知症は、初期の段階から海馬の萎縮により記憶障害が出現し、新しい情報を保持する力に影響がみられるのが特徴です。
新しい環境に置かれた場合、人はいったん「ここはどこで、何のための場所か」を学習し、トイレの位置や出口の方向といった、空間の位置関係を記憶します。しかし、海馬が障害されると、数分前の体験でも記憶を保持することができないため、何度説明を受けても新しい部屋や自分の居場所など認識できなくなるのです。
認知症の物忘れについては、以下の記事もご確認ください。
前頭葉の実行機能障害や注意機能の低下
脳の前頭葉は、実行機能や注意機能などを担います。実行機能とは、物事の優先順位を決め、スムーズに行動できるよう計画を立てる能力です。また、注意機能は周囲の雑音などから自分に必要な情報だけを選び、不要なものを遮断する機能です。
認知症の場合、実行機能が障害されると計画を立てて行動することが難しくなります。慣れない場所でトイレを使用した場合には、「ドアを開ける→鍵をかける→下着を下げる→便座のふたを開ける→座る」といった一連の流れが途切れてしまいがちです。その結果、下着を脱ぐ前に用を足してしまったり、ふたを閉めたまま座ったりといった行動が見られます。
また、注意機能の障害により、さまざまな情報が一度に入ると情報を処理しきれず、脳は混乱します。引っ越したり入院したりして環境が変わると、新しい環境下で脳が混乱し、不穏や興奮、激しい疲れなどにつながりやすくなるのです。
認知症の人の生活環境づくりのポイント

残念ながら認知症を治す方法は、いまだ明らかになっていません。一方で環境を整えることで、不穏や徘徊、抑うつといったBPSDを軽減できることがわかっています。
ここでは、認知症の生活環境づくりのポイントをまとめました。認知症の方が少しでも安心した生活が送れるよう、できそうなものから取り入れてみてください。
光と視覚情報の調整
認知症の方は注意機能の低下に加え、高齢による視力の低下も重なることで、目的のものを見つけるのが困難になりがちです。部屋はできるだけ明るくし、見やすい環境を整えましょう。
引き出しには、「靴下」や「シャツ」などの文字、イラスト、写真などの視覚的に理解しやすいラベルを貼ると、探し物を見つけやすくなります。また、カレンダーや時計は、大きくて見やすいものを選びましょう。
トイレの便座は、赤・青などのコントラストの強い色の便座カバーを使用することで、どこにあるか認識しやすくなるでしょう。トイレまでの動線にはセンサーライトなどを活用すると、夜でもトイレの場所を見つけやすくなり、転倒予防にもつながります。
冷暖房の遠隔管理
認知症では、機械の操作が苦手になり、冷暖房の調整が難しくなる方も多くみられます。ストーブなどの使用は近づきすぎて火傷をする危険性や、消し忘れによる火事の問題も考慮しなければなりません。
火を使わない家電に変更しつつ、スマートホーム技術を活用して、家族が遠隔で温度や電源を操作できるようにする方法をおすすめします。
慣れ親しんだ環境を取り入れる
アルツハイマー型認知症の場合、新しいことを覚えるのは苦手ですが昔覚えた記憶は比較的維持されやすいことがわかっています。
混乱を防ぐためにも、長年の習慣を維持することが大切です。ものの置き場所はできる限り変えないようにしましょう。家具の配置なども変えず、模様替えも控えましょう。
長年使用しているマグカップや椅子、家族の写真など、本人に馴染みのあるものを身近に置いておくと、見慣れた環境から「ここは自分の居場所だ」という安心感につながります。
下記の記事では、認知症の方との接し方についてまとめております。ぜひご一読ください。
環境の変化時に認知症を悪化させないためには

認知症のご両親が住み慣れた家を離れ、入院したりご家族と一緒に住んだりなど、どうしても環境の変化を避けられないケースも少なくないでしょう。
その際は、できるだけ慣れ親しんだ環境に近づけるようにしましょう。自宅で使い慣れた布団や枕を使用する、家族やペットの写真を飾るなど、安心できる空間づくりの工夫が必要です。
また、環境が変わると混乱から引きこもりがちになる可能性もあります。日常生活での刺激が減ると、認知症の症状は悪化する可能性があるため、運動や他者と話す機会、日光を浴びる機会などを可能な範囲で取り入れることも大切です。
できるかぎり元の生活に近づけ、ご本人の想いを汲み取り、混乱が少しでも防げる環境づくりを心がけましょう。
以下の記事は、ご両親が認知症と診断された際にご家族がやるべきことをまとめたものです。ぜひ参考にしてください。
認知症の進行を緩やかにするために今できること
認知症の方にとって、新しい環境に慣れることは大変難しく感じられるものです。一方で、安心できる環境づくりを周囲が心がけることで、不安の軽減につながり、BPSDなどの症状の緩和にも影響する可能性があります。
認知症は徐々に進行していく病気ですが、状態を定期的に確認することで変化にいち早く気づくことができ、予防にもつながりやすくなります。「ベルコメンバーズアプリ」の認知機能チェックは、定期的に簡単な質問に答えるだけでセルフチェックが可能です。
認知症は早期の対応でその後の進行を緩やかにし、ご本人とご家族の穏やかな生活を保つことにつながります。
アプリを活用し、今できることから、日々の変化を振り返る習慣をつくっていきましょう。
【参考文献】
日本精神科病院協会:居宅や介護施設での生活支援に役立つBPSDの予防のための対応と生活上のヒント集
Allison SL,Fagan AM,Morris JC,et al. Spatial navigation in preclinical Alzheimer’s disease.2016;52(1):77–90
Guarino A,Favieri F,Boncompagni I,et al. Executive functions in Alzheimer’s disease.2019;10:437
日本神経学会:認知症ガイドライン2017
政府広報オンライン:知っておきたい認知症の基本
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