認知症の相続人がいると相続はどうなる?4つの問題点や制度、注意点を解説
「相続人の中に認知症の人がいるとき、手続きは進められるのだろうか」「遺産分割協議は成立するのか」と不安に感じていませんか。
認知症であっても相続人になることは可能ですが、手続きでは意思能力の有無が法的に重視されます。意思能力の状態によっては相続手続きを通常通り進められず、各種制度の利用や特別な対応が必要になるケースもあります。
本記事では、認知症の相続人がいる場合の相続の進め方や起こりやすい問題、利用できる制度、トラブルを防ぐための対策を整理しました。相続の停滞やトラブルを防ぐためには、事前に手続きと注意点を把握しておくことが重要です。
目次
認知症の相続人がいても相続はできる?

認知症の相続人がいても、相続自体は法律上進められますが、認知症の方の状態によっては通常の方法では手続きを進めにくくなるケースがあります。
相続人に認知症の方がいる場合の詳細を見ていきましょう。
認知症でも相続人になることは可能
相続人の資格は親族関係など民法上の要件で判断され、認知症を理由に相続権が失われることはありません。重要となるのは相続人としての地位ではなく、手続きをおこなう際の意思能力の有無です。
遺産分割協議や各種手続きでは、内容を理解して意思表示できるかが重視されます。認知症の有無ではなく、意思能力の状態が実務上の判断基準となるため、個別の状況に合わせた対応が必要になります。
意思能力の有無で手続きの可否が変わる
遺産分割協議や相続放棄などの法律行為は、内容を理解し判断できる能力が前提となります。意思能力が欠けた状態でおこなわれた手続きは、有効と認められない可能性があります。
一方で、認知症であっても軽度で意思能力が十分とみなされる際は、手続きが有効と評価されるケースもあります。医学的な診断だけでなく、具体的な理解力や判断状況を踏まえて判断される点に注意が必要です。
認知症の相続人がいる場合の手続きの流れ

認知症の相続人がいるときの手続きの主な流れは以下のとおりです。
- 1. 相続人に認知症の人がいるか確認
- 2. 意思能力の有無を判断
- 3. 意思能力がない場合は成年後見人を選任
- 4. 後見人が遺産分割協議に参加
- 5. 協議成立後に相続手続き
まず相続人の中に認知症の方がいるか確認し、意思能力の有無を見極めましょう。意思能力が不十分とみなされた際は、必要に応じて家庭裁判所へ申立てをおこない成年後見人を選任します。
なお、認知症と診断された際に進めたほうがよい手続きは、下記の記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。
認知症の相続人がいる場合の4つの問題点

認知症の相続人がいるときは、手続きの進行や財産管理にさまざまな影響が生じます。
具体的にどのような問題が発生しやすいのか、代表的なポイントを整理していきましょう。
遺産分割協議が成立しないおそれがある
遺産分割協議では、相続人全員が内容を理解したうえでの合意が必要です。
意思能力を欠いた状態での合意は法律上無効と判断される場合があり、認知症で相続人の意思能力が不十分と判断されると、遺産分割協議が不成立になるおそれがあります。
協議が成立しない状態では、不動産の名義変更や預貯金の払戻しなどの手続きが進められません。
預貯金口座が凍結されたまま動かせない
金融機関が名義人の死亡を把握した時点で、口座の取引を停止する対応が一般的です。
払戻しには遺産分割協議書や相続人全員の同意が求められるため、認知症の相続人がいる場合は手続きが停滞しやすくなります。
資金が引き出せない状態が続くと、葬儀費用や生活費の支払いに支障をきたすでしょう。とくに被相続人の口座に生活資金を依存しているケースでは、実務上の影響が大きくなりやすいです。
意思能力が不十分な場合は相続放棄が難しい
相続放棄は家庭裁判所への申述によっておこなう法律行為であり、内容を理解したうえでの意思表示が求められます。意思能力が不十分な状態では本人による申述が認められず、相続放棄の手続きを進められません。
相続放棄には期限が設けられており、通常は相続開始を知った日から3か月以内におこなう必要があります。期限内に適切な対応ができないと、望まない債務を引き継ぐ結果となる可能性がある点に注意が必要です。
権限のない家族による代筆や代理対応は認められない
相続手続きにおける意思表示は、本人または法律上の代理権を有する者がおこなう必要があります。家族であっても正式な代理権がなければ、代筆や代理での手続きは原則として有効と認められません。
適法な代理権がないまま書類を作成したケースでは、あとから無効と判断され、相続人間の紛争につながるおそれがあります。手続きを正当な形で進めるためには、成年後見制度など法的な枠組みの活用を検討する必要があります。
認知症の方を支援する成年後見制度とは?

認知症によって意思能力が低下した際、法律行為を支援する制度として成年後見制度があります。
制度の仕組みや役割について理解を深めていきましょう。
後見人が担う役割
成年後見人は、意思能力が低下した本人に代わり、財産管理や契約行為などの法律行為をおこなう権限を有しています。日常的な支払い管理から不動産の処分まで、本人の生活と財産を守るための対応をおこなう代理人です。
相続の場面では、遺産分割協議に本人の代理として参加し、内容が本人にとって不利益にならないかを確認しながら合意形成を進めます。また、後見人はほかの相続人の意向よりも、本人の利益を最優先に行動する義務を負います。
法定後見と任意後見の仕組みの違い
成年後見制度には、法定後見と任意後見の2つの仕組みがあります。
法定後見は判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申立てをおこない、後見人などが選任される制度です。
選任や権限は法律で定められており、本人に不利益な契約を取り消せる点が特徴です。一方で、誰が後見人になるかは裁判所の判断に委ねられるため、家族の意向が反映されない場合があります。
任意後見は判断能力がある段階で契約を結び、将来に備える仕組みです。後見人や権限の範囲を本人が決められるため柔軟な設計が可能ですが、契約で定めた範囲でしか対応できず、契約の取消しは原則できません。
両制度は開始時期や関与の仕方に違いがあり、状況に応じた使い分けが求められます。
成年後見制度を利用する際の注意点

成年後見制度は有効な支援手段ですが、利用にあたっては注意すべき点も存在します。
事前に把握しておきたいポイントを整理していきましょう。
親族以外が後見人に選ばれる可能性がある
後見人は家庭裁判所が総合的に判断して選任するため、必ずしも家族が選ばれるとは限りません。本人の財産状況や親族間の関係性によっては、弁護士や司法書士などの専門職が選任されるケースもあります。
親族以外の専門職が後見人となるケースでは、客観的な立場で適正な財産管理がおこなわれるものの、家族の意向がそのまま反映されるとは限らない点に注意が必要です。本人の利益保護が最優先となる制度の仕組みを理解しておく必要があります。
時間や費用がかかる
後見開始の申立てから実際の選任までには一定の期間を要し、緊急性が高い場合でもすぐに対応できるとは限りません。書類の準備や審理の過程を経るため、手続き全体に時間がかかる傾向にあります。
また、後見人が選任された後は、家庭裁判所の判断にもとづき報酬が発生する場合があります。報酬は本人の財産から支払われるため、長期的な費用負担も見据えた上で制度利用の検討が必要といえるでしょう。
遺産分割の内容に制約がある
後見人は本人の利益を守る義務を負っているため、ほかの相続人の意向だけで遺産分割の内容は決定できません。不合理に不利な分割案や、利益を損なう内容には同意しない判断が求められます。
また、後見人自身が相続人のケースなど、利益が対立する状況では公平性の確保が必要です。その際は家庭裁判所に申立てをおこない、特別代理人を選任して手続きを進めることになります。
認知症の方の相続トラブルを防ぐための対策

認知症の相続人がいるときは、事前の準備によってトラブルを防ぎやすくなります。
具体的な対策について、順に確認していきましょう。
遺言書を作成する
遺言書を作成しておくと、遺産分割協議を経ずに相続内容を確定できます。相続人全員の合意を必要としないため、認知症の相続人がいても手続きの停滞を防ぎやすくなります。
有効な遺言とするためには、方式や内容に関する法的要件を満たさなければなりません。意思能力がある段階で適切な手順を経て遺言書を作成しておくと、将来のトラブル予防にも役立つでしょう。
家族信託を検討する
家族信託は、財産の管理や承継方法を契約によって予め定める仕組みです。契約時に定めた内容にもとづき、判断能力が低下した後も財産管理を継続できます。
成年後見制度とは異なり、柔軟な設計が可能である点が特徴ですが、契約内容によって効果が大きく左右されます。目的に応じた設計が求められるため、専門的な知識を踏まえた上での検討が欠かせません。
生前贈与を進める
生前に財産を移転することで、相続時に必要となる手続きの削減につながる可能性があります。相続開始後の遺産分割協議に依存しないため、認知症の影響を受けにくい点が特徴です。
一方で、贈与には税務上のルールや制限があり、計画性のない実施は想定外の負担につながるリスクがあります。全体の資産状況を踏まえたうえで、生前贈与をどう実施するかを慎重に検討しましょう。
認知症の相続人に関するよくある質問
認知症の相続人に関するよくある質問を整理しました。より詳しく理解するための参考にしてください。
相続手続きで認知症の状態はどのように確認される?
相続手続きを進める際「相続人が認知症とバレるのでは?」と不安になることもあるでしょう。
相続手続きでは、意思能力の有無が重要な判断要素となり、実務上は医師の診断書や日常生活の状況、判断力の程度などを踏まえて総合的に確認されます。認知症と診断されているかどうかだけでなく、具体的にどの程度内容を理解し判断できるかがポイントです。
なお、認知症である事実を隠したまま手続きを進めると、遺産分割協議や各種契約が無効になり、手続きをやり直さなければならないケースがあります。
手続きのやり直しが必要になると、相続人間の紛争や手続きの長期化につながるおそれがあるため、意思能力にもとづいた適切な対処を心がけましょう。
父死亡で母認知症の場合の相続はどうなる?
父が亡くなった場合、認知症の母であっても配偶者として法定相続人に含まれるため、遺言がない場合は遺産分割協議に必ず参加する必要があります。
母に遺産の内容を理解し判断する能力が十分でない場合は、家庭裁判所に申立てをおこない、成年後見人の選任が必要です。
また、子が母の後見人となり、その子自身も相続人である場合には利益相反が生じる場合があります。利益相反が発生するケースでは、特別代理人の選任が必要となるため、状況に応じた対応が必要です。
相続人が認知症のときは特別代理人が必要?
後見人と本人の間で利益が対立する際は、公平性を確保するため、家庭裁判所から一時的に選任される特別代理人が必要です。代表的な例として、後見人自身が相続人となるケースが挙げられます。
すべての事案で特別代理人が必要となるわけではなく、利益相反の有無によって判断されるため、認知症の方に合わせた対応が求められます。
認知症の相続人がいる場合は内容に応じて専門家に相談しよう
認知症の相続人がいても相続は進められますが、意思能力の有無によって手続きの進め方が変化する点に注意が必要です。
意思能力が不十分な状態でおこなわれた手続きは、無効と判断される可能性があるため、状況に応じて成年後見制度の利用などの対応を検討する必要があります。
相続手続きは放置すると財産の凍結や協議の停滞など実務上の支障が生じやすくなります。トラブルを防ぐためには、遺言書の作成や家族信託などの事前対策も含めて、早めの準備を意識しましょう。
また、相続の手続き以外にも、認知症と診断された際はさまざまな対応が求められます。認知症に関する基本的な知識や手続きの流れを整理しておくと、今後の対応を判断する際に役立ちます。
下記の記事で認知症の基礎知識をわかりやすくまとめているので、あわせてご覧ください。
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