認知症の転倒予防はなぜ必要?3つの理由と繰り返すときの対策も解説
認知症の方は判断力や筋力の低下などが重なり、健常な高齢者と比較すると転びやすい傾向にあります。転倒を防ぐには、自宅の環境を整えるだけではなく本人が落ち着いて過ごせるように精神面に配慮したり、筋力を維持する運動を取り入れたりすることも重要です。
本記事では、認知症の方に転倒予防が必要な理由や転倒しやすい場所、自宅でできる工夫、転倒そのものを防ぐための予防策を解説します。
住まいの環境や日々のかかわり方を見直すことで、認知症の方が自宅でより安全に過ごしやすくなるでしょう。
目次
認知症の方に転倒予防が必要な3つの理由

こうした背景には、次の3つが挙げられます。それぞれ確認していきましょう。
判断力や注意力が低下しやすいため
小さな段差や床の障害物があっても気づきにくく、足を引っかけて転びやすくなります。距離感がつかみにくくなると、少し注意すれば避けられるような障害物でも気づかずにつまずくケースもあるでしょう。
家族が転ばないよう注意を促しても、内容を十分に理解できない場合や、危険への意識を維持できないなどの理由で転倒を繰り返すこともあります。
不安や妄想などの症状が見られる場合があるため
今いる場所や時間の感覚が曖昧になる「見当識障害」がみられると、本人は強い焦りや切迫感から「どうしても移動しなければ」という衝動を覚え、周囲が制止する前に移動を始めてしまうことも少なくありません。
焦りによる急な動作に判断力・注意力の低下が重なることで、転倒の危険はさらに高まります。
認知症の被害妄想は下記の記事で紹介しているので、参考にご覧ください。
筋力やバランスにかかわる能力が低下しやすいため
歩幅が狭くなったり、立ち上がりが不安定になったりすると、少しのふらつきでも転倒につながりやすくなります。認知症の方の転倒では認知機能や精神面の変化だけでなく、筋力やバランスなどの体の能力にも目を向けることが大切です。
認知症の方が転倒しやすい場所や場面

どのような場所や場面で危険が高まりやすいのかを見ていきましょう。
ベッド周辺
起き上がる、立ち上がる、体の向きを変えるなどの動作が多く、寝起きは意識がはっきりしにくいことからふらつきも出やすくなります。床に物が置かれていたり、コードが伸びていたりすると、足を引っかける危険が高まるでしょう。
ベッドの高さが合っていない場合は、立ち上がる際に負担がかかりやすく転倒につながるおそれがあります。ベッドを適切な高さに調整したり、手すりを取り付けたりするだけでも、立ち上がり時の転倒リスクを下げることができます。
トイレに行く途中
また、ベッドからトイレまでの距離が長いほど歩行の負担が増え、途中でふらつく、物につまずくなどの危険も高まります。
移動中だけでなく、用を足す前後も要注意です。立ち上がる、ドアを開け閉めするといった複数の動作が連続するため、足を滑らせたりバランスを崩したりする場面が生じやすくなります。
室内の段差や敷物のある場所
加えて、敷居や床の継ぎ目は見落としやすく、歩行が不安定な状態では足先が引っかかりやすい場所です。床に障害物になる物を置かないことに加え、床の状態まで意識して認知症の方の身の安全を守りましょう。
自宅でできる認知症の方の転倒予防の工夫

認知症の方の転倒予防では、自宅環境の見直しも重要です。生活の中で取り入れやすい工夫を確認していきましょう。
つまずきやすい物を減らす
- 鞄
- 雑誌
- 新聞
- 電源コード
鞄や本、書類などは床ではなく棚に置きましょう。電源コードは乱雑に床に垂れないよう、配線カバーや結束バンドなどを活用してまとめておくとつまずきにくくなるでしょう。
また、荷物はその日のうちに片付ける、不要なものは処分するといった習慣が転倒予防に重要です。
移動しやすい動線を整える
具体的には、トイレや玄関までの動線上の障害物をできるだけ減らしつつ、手すりをつけて通る場所を一定にするなどの工夫が挙げられます。
また、ベッドの位置や動線を介護者の目が届きやすい配置に変えると、認知症の方の立ち上がりや歩き出しの変化にも早めに気づきやすくなるでしょう。
トイレの場所を分かりやすくする
トイレの扉に大きめの目印をつける、床に進行方向を示すテープを貼るなど迷わず移動できる工夫をしておきましょう。認知症の方はトイレの位置が分からずに焦り、急いで動き始めるときがあるためです。
トイレ内や周辺の障害物を減らし、出入りしやすい環境を整えておく工夫も重要です。また、認知症の方は尿意を自覚しにくくなるケースもあるため、排泄の時間帯に合わせて家族が声をかけることで、1人で移動する場面を減らしやすくなります。
照明を見直して足元を確認しやすくする
照明機器を工夫して足元を明るくすると、障害物のつまずきを防ぐだけではなく、暗さからくる不安や迷いも軽減しやすくなります。とくに動きにあわせて点灯するセンサーライトなら、スイッチ操作が難しい方でも自動的に明かりがつくため便利です。
ただし、まぶしすぎる照明はかえって混乱を招くおそれがあるため、見やすさと落ち着きの両方を考慮して照明機器を選びましょう。
センサーや見守りカメラを設置する
とくに転倒しやすい時間帯や場所が決まっている場合や、障害物の撤去だけでは不安が残るときに、センサーやカメラの設置を検討してみましょう。この際は、本人の生活リズムやプライバシーにも配慮しながら、無理なく続けやすい形で取り入れる意識が大切です。
認知症の方の転倒そのものを防ぐための予防策

日々の暮らしの中で実践しやすい予防策を見ていきましょう。
無理のない範囲でストレッチやトレーニングを実施する
座ったままできる体操や、つかまりながらおこなう運動でも、足の筋力維持につながる可能性があります。もも上げ、膝伸ばし、かかと上げなど、負担が少なく続けやすい内容から始めると取り組みやすくなるでしょう。
ただし、本人が負担に感じる運動は、かえって疲労や介護への抵抗感につながるおそれがあります。無理なく継続できる範囲を見極め、必要に応じて訪問リハビリテーションやデイサービスの活用を検討すると良いでしょう。
杖・歩行器・福祉用具を活用する
主な福祉用具の種類と特徴は以下のとおりです。
- 一本杖(T字杖):軽度のふらつきがある方に適しており、持ち運びやすい
- 四点杖:接地面が広く安定性が高い
- 歩行器・歩行車:両手で支えるため安定性が高く、屋内での移動補助に使いやすい
- 滑り止め靴下・室内履き:フローリングや浴室での足元の滑りを防ぐ
福祉用具の選択は、本人の歩行状態や認知機能に合わせる必要があります。介護保険を利用すれば杖・歩行器・歩行車などは月額レンタルが可能なため、ケアマネジャーに相談して本人に合った用具を選びましょう。
精神的に落ち着ける環境を整える
無理に移動を止めようとすると、かえって焦りや戸惑いが強まるおそれがあるため、まずは落ち着いて過ごせる住環境を整えてみてください。
本人が戸惑いやすい時間帯や場面を把握し、生活の流れを整えたり、安心しやすい声かけを続けたりすると、落ち着いて過ごせる時間を増やしやすくなるでしょう。
認知症の家族との接し方は下記の記事で説明しているので、参考にご活用ください。
服用中の薬の影響が考えられるときは専門家に相談する
服薬を始めた直後や用量が変わった時期に転倒が増えた場合は、薬が関係している可能性があります。ただし、自己判断で服薬を中断したり減薬したりすると、別の不調が出るおそれがあるため、かかりつけ医への相談を優先してください。
また、体調の変化と服薬のタイミング、そのほかの生活での様子を一緒に記録しておくと、医師への相談時に状況を伝えやすくなるでしょう。
認知症の方が転倒した際の影響とリスク

高齢者は骨が弱くなっているケースが多く、転倒をきっかけに足や腰などを骨折すると、長期の入院や安静が必要になるかもしれません。加えて、活動量が落ちると筋力低下が進みやすく、歩行や排泄など日常生活の動作にも影響が出やすくなるでしょう。
また、認知症の方では入院中の安静を保つことや、リハビリの指示を理解しにくくなることもあり、回復が遅れる場合があります。転倒が起きてから対処するのではなく、安全な環境を整えることが大切です。
認知症の方が転倒を繰り返すときの相談先

介護面では、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談し、介護サービスや見守り体制の見直しを進める方法もあります。利用できるおもなサービスは以下のとおりです。
- 訪問リハビリテーション
- 通所リハビリテーション
- 福祉用具貸与
- 住宅改修
認知症の方の介護に難しさや負担を感じている場合は、1人で抱え込まず、上記のサービスや相談窓口を積極的に活用してください。
認知症の転倒予防に関するよくある質問
認知症の転倒予防に関するよくある質問を整理しました。
高齢者が転倒を繰り返す場合の対策には何がある?
具体的な対策には以下が挙げられます。
- 手すりの設置
- 段差の見直し
- 敷物の撤去
- 照明機器の取り付け
- センサーやカメラの取り付け
また、無理のない範囲での筋力トレーニングや、不安や焦りを感じにくくするための精神面のケアなども、認知症の方の転倒を防ぐうえで重要とされています。
認知症で転倒や転落が増えるのはなぜ?
- 判断力や注意力の低下
- 不安や混乱による急な立ち上がり
- 筋力低下
- バランス能力の低下
- 薬の影響
複数の要因が重なって起こるケースが多いため、転倒や転落の危険を減らすためには、環境を整えるだけでなく、身体面や生活面の見直しが求められます。
転倒が増えると認知症の進行につながることはある?
ただし、転倒をきっかけに骨折や入院が起こり、活動量が落ちると、筋力低下や生活機能の低下につながるおそれがあります。
認知症の方では転倒後の治療やリハビリが難しくなる場面もあるため、早めに支援につなげる意識が求められます。
転倒を予防して認知症の方の身の安全を守ろう
転倒予防は家族だけで抱え込まず、必要に応じてケアマネジャーや地域包括支援センター、訪問リハビリや通所リハビリなどの支援を活用しながら進めることが重要です。
また、認知症についての基本的な知識を把握しておくと、転倒以外の介護や生活環境の見直しを考える際のヒントになります。下記のページで認知症の基礎知識をわかりやすくまとめているので、あわせてご覧ください。
【参考文献】
PubMed.Falls in Cognitively Impaired Older Adults: Implications for Risk Assessment And Prevention
NCBI Bookshelf.Nonpharmacologic Interventions for Agitation and Aggression in Dementia
PMC.Which unmet needs contribute to behavior problems in persons with advanced dementia?
PubMed.Medication-related falls in the elderly: causative factors and preventive strategies
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