認知症で尿意を感じない原因は?3つの対処法や注意点を解説
「認知症の家族が尿意を感じていないように見えるけど、何が原因なのだろうか」「失禁が増えてきたけど、認知症の影響なのか別の病気なのか分からない」と悩んでいませんか。
認知症の尿失禁では、尿がたまった感覚を理解しにくくなるほか、トイレへ行く際の判断力や周囲へ自分の意思を伝える力の低下がかかわっているケースが少なくありません。
本記事では、認知症で尿意を感じないように見える主な原因や実際にみられる事例、対処法、尿失禁を防ぐ工夫、相談を検討したい目安を解説します。
認知症の方の失禁では、原因に応じた対応を知っておくと、本人の不安や介助する家族の負担をやわらげることに役立ちます。
目次
認知症で尿意を感じない主な原因

とくに、以下の状況があると失禁につながりやすい傾向にあります。
- 尿意に気づきにくい
- トイレの場所が分からない
- 移動や着替えに時間がかかる
認知症での排尿の失敗について考える際は、尿意の有無だけで判断せず、トイレへの移動、衣服の着脱、意思の伝達のどこで困りやすいのかを丁寧に観察することが大切です。
認知症で尿意を感じないように見える実際の事例

認知症の排泄トラブルは、尿意そのものがないとは限りません。どのような場面で尿意を感じないように見えるのか、実際の事例に沿って確認していきましょう。
尿意そのものが分かりにくくなるケース
本人が尿意と自覚できず「気持ち悪い」「落ち着かない」など曖昧な表現になるときがあり、周囲が排泄のサインだと気づきにくいケースもみられます。
尿意を言葉で説明できないまま時間が過ぎると、トイレへ行くきっかけを逃しやすくなり、結果的に失禁につながりやすくなるのです。
尿意を感じても伝えられないケース
認知症では言葉で気持ちを伝える力や、今の状態を整理して表現する力の低下がみられた結果、「トイレに行きたい」と周囲へ伝えられず、失禁につながりやすいです。
また、排泄の介助を受けるときは恥ずかしさを抱きやすく、遠慮も重なりやすいものです。家族や介助者に気を使う気持ちが強いと、伝えたい思いがあっても口に出せず、失禁につながりやすくなります。
トイレに行く行動ができないケース
認知症では「今自分がどこにいるか」「次に何をすればよいか」が分かりにくくなり、トイレの場所や手順が分からなくなるためです。
施設への入所や模様替えのあとに失禁が増えやすいのも同じ理由で、環境が変わると場所の把握が難しくなります。また、夜は暗さの影響で移動しにくくなり、排尿が間に合わないことがあります。
認知症以外で尿意を感じにくくなる主な原因

尿意を感じにくくなる原因は、認知症だけとは限りません。ほかにどのような病気や要因が関係するのかも、あわせて把握しておきましょう。
尿路感染症
尿意を感じにくくなる原因の1つに、尿路感染症が挙げられます。尿路感染症でみられる主な症状は以下のとおりです。
- 頻尿
- 尿意切迫
- 排尿時痛
- 下腹部痛
認知症の方で尿失禁が短期間で増えたときは、認知機能低下だけでなく、炎症による不快感や排尿異常が隠れていないか確認する必要があります。発熱や排尿時の痛みが加わるときは、医療機関への相談を検討してください。
前立腺肥大や過活動膀胱
前立腺肥大症では、加齢に伴って前立腺が大きくなり、排尿が困難になるほか、尿意がより頻繁に、切迫して感じられます。
「過活動膀胱診療ガイドライン第3版」(日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会)によると、過活動膀胱は「尿意切迫感を必須症状とし、加齢とともに増加し、生活の質の低下に関与している」とされています。
認知症では訴えが不十分になりやすく、排尿トラブルの背景が見えにくくなる点にも注意が必要です。
男性の高齢者で以下の変化があるときは、前立腺肥大をはじめとした泌尿器疾患も視野に入れましょう。
- 尿の勢いが弱い
- 何度もトイレに行く
- 間に合わず漏れる
認知症と泌尿器の病気が同時に存在する例もあるため、症状ごとの対応が大切です。
薬の副作用
- 抗精神病薬
- 三環系抗うつ薬
- 抗ヒスタミン薬
- カルシウム拮抗薬
睡眠薬や抗不安薬の服用によって眠気や注意力の低下が強まると、尿意に気づくのが遅れたり、トイレへの移動が間に合いにくくなったりする事例もあります。認知症の方では、判断力や行動力の低下も重なり、排泄の失敗につながるでしょう。
薬を飲み始めてから排尿が間に合わないことが増えたときは、自己判断で服用をやめず、医師や薬剤師への相談を検討してください。
薬の副作用の詳細は下記の記事で解説しているので、参考にご覧ください。
加齢による膀胱機能の低下
- 尿意に気づきにくくなる
- 排泄を我慢しにくくなる
- 深夜に何度もトイレへ行きたくなる
認知症では、加齢による変化と認知機能の低下が重なり、排泄の失敗につながるリスクが高まる可能性があります。
一方で、加齢による変化はゆるやかに進むケースが多いため、短い期間で失禁が目立って増えたときは、別の病気や薬の影響も視野に入れましょう。
認知症で尿意を感じないときの3つの対処法

認知症で尿意を感じにくいときは、日常生活の中でできる工夫を取り入れることが大切です。ここでは、日常生活で取り入れやすい3つの対処法を紹介します。
定期的にトイレへ誘導する
起床後、食後、水分をとったあとなど、生活の流れに合わせた声かけが大切です。決まったタイミングで誘導すると、排泄の機会を作りやすくなります。
あわせて、排泄の記録をつけると、尿が出やすい時間帯や失禁しやすい場面を把握しやすくなります。記録をもとに声かけの時間を調整すると、本人に合った誘導のタイミングを見つけやすくなるでしょう。
着脱しやすい服を選ぶ
認知症では、衣類の上げ下げに時間がかかり、トイレに間に合わなくなる傾向があります。とくにボタンやファスナーが多い服は着脱の動作が複雑になりやすいため、注意が必要です。
着脱しやすい衣類を選ぶと、本人が排泄動作を進めやすくなるだけではなく、介助する側の負担の軽減にもつながります。
就寝前の過剰な水分摂取を控える
就寝直前にまとめて水分をとると、認知症では尿意に気づきにくい、移動が間に合わないなどのリスクと重なり、失禁につながりやすくなります。
就寝前にまとめて飲むのではなく、日中のうちにこまめに水分を取る意識を持つと、夜間の排尿回数による負担を抑えやすくなるでしょう。
認知症の方の尿失禁をできるだけ防ぐための工夫

認知症での尿失禁を減らすには、排泄しやすい環境を整える視点も欠かせません。本人の負担を抑えながら続けやすい工夫について、順番に見ていきましょう。
トイレに行きたい様子がないかよく観察する
具体的には、以下がトイレに行きたい際にみられるサインの例です。
- 落ち着きがなくなる
- 物陰に隠れる
- 突然静かになる
ただし、トイレに行きたいサインには個人差があるため、家族や介助者で「この人はこういう様子のあとに排泄しやすい」という共通の理解を深めると対応しやすくなります。
本人の変化を見つけられると、声かけのタイミングも合わせやすくなるでしょう。
「トイレに行きたい」と言いやすい状態を作る
また、声かけは子ども扱いにならないよう表現に注意し、急かしすぎないことも意識したいポイントです。本人の尊厳を守る接し方を心がけると、排泄に関する不安や遠慮が和らぎやすく、介助を受け入れやすくなるときもあるでしょう。
トイレの表示を分かりやすくする
具体的には、以下の工夫が挙げられます。
- ドアに大きく「トイレ」と書いて貼る
- 便器の絵を表示する
- ドアを開けて便器が見えるようにする
また、文字の理解が難しくなっている方では、色や絵を組み合わせたほうが伝わりやすい場合があります。
トイレ内の環境を使いやすく整える
具体的には、以下の工夫でトイレの環境を調整すると、認知症の方の利用しやすさを高められるでしょう。
- 便器と誤認しやすい物を置かない
- 滑りやすい敷物を避ける
- 手すりを設置する
夜は通路やトイレ周辺を明るくし、つまずく物を片づけておくことも重要です。
認知症の方が尿意を感じず失禁したときの注意点

本人の尊厳に配慮しながら対応するために、押さえておきたい注意点を確認していきましょう。
責めずに落ち着いて対応する
失禁した直後は、本人が強い恥ずかしさや不安を感じているときがあります。怒ったり、否定的な言葉をかけたりすると、気持ちが傷つきやすくなり、排泄したいときに言い出しにくくなりかねません。
また、穏やかなトーンで声かけしつつ接すると、本人も落ち着きやすくなる傾向にあります。片づけの際は周囲から見えにくいよう配慮し、失禁に関する話題を必要以上に出さない意識も心がけましょう。
認知症の方との接し方は、下記の記事で詳細をまとめているので参考にご覧ください。
できる動作は本人に任せる
一度失禁しても、すべての動作を介助に切り替える必要はなく、むしろ本人ができる部分まで周囲が対応すると、自信の喪失につながりかねません。
移動や立ち座りが難しいときは、手すりやポータブルトイレなどを取り入れる方法もあります。全面的に介助するか、すべて本人に任せるかではなく、本人の力を活かしながら支えましょう。
排泄の記録を残す
- 排泄の時間帯
- 排泄回数
- 排泄直前の様子
- トイレへの誘導の有無
- 当日に摂取した水分量
どの時間帯や状態で失禁しやすいかが見えてくると、本人に合った声かけや誘導のタイミングを考えやすくなります。
医師やケアマネジャーに相談する際にも、排泄に関する記録があると状況を具体的に伝えやすくなるでしょう。
認知症の方の尿失禁で医療機関や介護サービスへの相談を検討する目安

- 排尿時の痛みや発熱、血尿がみられる
- 尿失禁によって外出や通院がしにくくなった
- 深夜の対応が増えて家族だけでは支えきれなくなった
排泄の支援は介助する側の負担も重くなりやすいため、主治医や地域包括支援センター、ケアマネジャーなどに相談しながら、無理のない支援体制を整えていきましょう。
介助でつらさを感じる際の相談先や支援サービスは下記の記事で説明しているので、参考にご覧ください。
認知症で尿意を感じない原因に関するよくある質問
認知症で尿意を感じない原因に関するよくある質問を整理しました。理解を深めたい方は、参考にしてください。
認知症で尿意がないように見える原因は?
認知症では、尿意の自覚が困難になるほか、気づいても行動につなげられない場合もあります。
見た目だけでは尿意の有無を区別しにくいため、本人の表情や落ち着かなさ、移動の様子、環境の変化など総合的な判断が必要です。
尿失禁は認知症のどの段階からみられやすくなる?
ただし、症状には個人差があり、身体や周辺環境の変化、泌尿器の病気、薬剤の影響でも前後するケースがあります。尿失禁の有無だけで認知症の進行段階を自己判断するのではなく、実際の困りごとをもとに医師と対策を考えることが大切です。
認知症の尿失禁があると介護度に影響する?
排泄の場面で見守りや声かけ、介助が生じている場合は、介助の手間を判断する際の指標の1つです。
尿失禁の回数だけでなく、どのような介助が必要か、家族がどの場面で困っているかを記録しておくことが大切とされています。
認知症で尿意を感じない原因を理解して適切に対応しよう
失禁がみられても責めずに接し、定期的な誘導や環境調整など、本人が排泄しやすい工夫を続けていきましょう。
ただし、尿失禁が急激に増えたり、排尿時の痛み、発熱、血尿がみられたりするときは、認知症以外の病気が関係している可能性もあるため、医療機関への相談を検討してください。
認知症での失禁への対応は家族だけで抱え込まず、必要に応じて介護サービスや地域包括支援センターなども活用しながら、介助の負担を抑える工夫も大切です。
また、認知症についての基本的な知識を整理しておくと、尿失禁に限らず、今後の介助や生活環境の見直しを考える際のヒントになります。下記のページでわかりやすくまとめているので、あわせてご覧ください。
【参考文献】
PubMed.Urinary Incontinence and Alzheimer’s Disease: Insights From Patients and Preclinical Models
PubMed.Mody L, Juthani-Mehta M. Urinary Tract Infections in Older Women
PubMed.Benign prostatic hyperplasia
PubMed.Overactive bladder in the elderly: a guide to pharmacological management
日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会:過活動膀胱診療ガイドライン第3版
PubMed.Lower Urinary Tract Disorders as Adverse Drug Reactions-A Literature Review
PubMed.Voiding difficulties in the elderly
PubMed.Validation therapy (VT) in nursing home residents with dementia: a randomized controlled study.
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