認知症の帰宅願望はなぜ起こる?原因や対応の仕方5つとやってはいけない対応を解説

認知症の帰宅願望はなぜ起こる?原因や対応の仕方5つとやってはいけない対応を解説

「認知症の親が家に帰りたいと言って聞かない」「夜になると外に出ようとする。どう対応すればいいのかわからない」

そんな悩みを抱えている家族は少なくありません。厚生労働省の調査によると、実際に施設スタッフが対応困難と感じる行動として帰宅願望が挙げられており、在宅・施設を問わず介護現場における共通の課題となっています。

この記事では、帰宅願望が起こる原因や家族が実践できる対応の仕方5つ、やってはいけない対応などをわかりやすく解説します。正しく理解することで、本人に寄り添った対応ができるようになり、家族の介護負担も軽減できるでしょう。

認知症による帰宅願望とは

認知症による帰宅願望とは

帰宅願望とは、認知症になると現れる行動の1つであり、「家に帰らせて」と何度も言ったり、実際に帰宅しようと外に出たりする状態を指します。

自宅や介護施設どちらでも見られ、すでに自宅にいるにもかかわらず「帰りたい」と言い始めることもあるなど、行動の現れ方や強さには個人差があります。うまく対応できず家族が困惑するケースも少なくありません。

認知症で帰宅願望はなぜ起こる?

認知症で帰宅願望はなぜ起こる?
帰宅願望が起こる背景には、認知症特有のいくつかの原因が絡み合っていると考えられています。原因を知っておくことが、適切な対応につながります。

認知症の見当識障害や記憶障害によるもの

帰宅願望の主な原因として、見当識障害や記憶障害が挙げられます。見当識障害とは、今いる場所や時間、周囲の状況を正しく認識することが難しくなる状態のことです。

また、記憶障害によって現在の住まいへの記憶が薄れ、昔住んでいた家を「本当の家」として認識してしまう場合もあります。

居住環境や人間関係などの変化

施設への入居や引っ越しなど、環境の変化も帰宅願望につながる要因の1つです。慣れ親しんだ場所や人間関係から離されることで、不安や孤独感を抱きやすくなるためです。

また、「子どもたちが私の帰りを待っている」「家に帰って食事を用意しないといけない」といった言葉として現れることもあり、場所への執着だけでなく、家族への思いや役割意識が関係していることもあります。

夕暮れ症候群による影響

夕方になると不安や混乱が強くなる「夕暮れ症候群」も、帰宅願望に影響することがあります。

夕暮れ症候群とは、午後遅くから夜間にかけて興奮・混乱・不安・攻撃性などの神経精神症状が出現または悪化する現象で、認知症の方に多くみられるとされています。

周囲が暗くなってくると状況の把握が難しくなり、「家に帰らなければ」という焦りが強まりやすくなるためです。体内時計の乱れや環境・社会的要因、認知機能の低下などが関係していると考えられています。

認知症の帰宅願望がみられたときの対応の仕方5つ

認知症の帰宅願望がみられたときの対応の仕方5つ
帰宅願望への対応で大切なのは、説得するのではなく「気持ちに寄り添う」ことです。実践できる5つの対応方法を紹介します。

まずは気持ちに共感した声掛けをする

帰宅願望がみられたときは、まず本人の気持ちを受け止めることが重要です。

「そうですか、帰りたいんですね」「家のことが心配ですよね」と共感の言葉をかけることで、本人が安心しやすくなるとされています。スキンシップをとったり、アイコンタクトを取ったりするなど、言葉以外の方法で交流することも必要です。

帰りたい理由を聞いてみる

「なぜ帰りたいのか」を確認することで、本人が抱えている不安や困りごとを知るきっかけになります。「何か心配していることがありますか?」「何が気になっていますか?」などと優しく聞いてみてください。

帰宅願望の背景には、「家族に会いたい」「仕事に行かなければ」「夕食の準備をしなければ」といった理由が隠れていることも少なくありません。理由を把握できると、本人の気持ちに合わせて対応できるようになるでしょう。

別の話題や活動へ自然に誘導する

気持ちを受け止めたうえで、別の話題や活動へ自然に誘導することも有効な対応の1つです。

「お茶でも飲みませんか?」「一緒に散歩しましょう」など、本人が興味を持ちやすい活動を提案してみましょう。

ただし、帰宅願望が強く出ているときは他のことが耳に入りにくいため、帰宅願望が落ち着いているときに趣味活動などへ誘う方法もあります。また、活動に熱中しすぎて疲れさせてしまうと、かえって帰宅願望を引き起こすこともあるため注意が必要です。

好きな趣味の話や思い出話に話題を向けることで、帰宅願望が自然と落ち着くこともあります。強引に引き止めるのではなく、注意を別のものに向けることがポイントです。

安心できる環境を整える

本人が安心して過ごせる環境を整えることも、帰宅願望の軽減につながる場合があります。

例えば、家族の写真を見える場所に移したり、長年使ってきた家具や持ち物を身近に置いたりすることで、安心感を得やすくなるでしょう。また、認知症になると光や音などの強い刺激はストレスになる恐れがあるため、これらを調整することで気持ちを和らげられる可能性があります。

本人が好きだった活動を取り入れることも効果的です。例えば、料理好きな方であれば、職員や家族と一緒にキッチンに立って野菜を切るなど、慣れ親しんだ作業を一緒に行うことで表情が穏やかになるケースも報告されています。

生活リズムを整える

日中に適度な活動を取り入れ、規則正しい生活リズムを保つことも大切です。

日中に体を動かしたり、人と交流したりすることで、夕方の不安や焦りを軽減しやすくなると言われています。

また、睡眠不足は状態を悪化させるため、夜にしっかり眠れる環境を整えることも意識しておきましょう。

認知症の帰宅願望でやってはいけない家族の対応

認知症の帰宅願望でやってはいけない家族の対応
対応の仕方によっては、本人の不安や混乱をかえって強めてしまうリスクがあります。避けるべき対応を事前に知っておくことが大切です。

「ここが家でしょ」と否定した声掛けをする

本人の認識を無理に修正しようとする声掛けは、混乱や不安を強める可能性があります。「今ここが家だ」という説明をそのまま理解できない状態になっていることがあるためです。

否定されたという感情だけが残り、信頼関係を損なうことにつながりかねません。本人の認識を正すよりも、気持ちに寄り添う対応を優先しましょう。

「帰れません」と強く制止する

強い言葉で帰宅を拒否すると、本人が興奮したり、帰宅願望がさらに強くなったりすることがあります。

「帰れない」という事実を伝えることよりも、気持ちを受け止めることのほうが、落ち着きを取り戻しやすいでしょう。

感情的に叱る

介護することに疲れた状況で感情的に叱ってしまうことがあるかもしれませんが、本人は傷つき、不安や怒りが増幅しがちです。

認知症の方は叱られた理由を理解できなくても、叱られたという感情は残りやすいとされているため、可能な限り冷静な対応を心がけることが大切です。

無理に説得し続ける

何度説明しても理解できない場合があり、同じやり取りが繰り返されることもあります。

説得を続けることで本人の疲労や混乱が増すこともあるため、説明よりも気持ちに寄り添う対応を優先しましょう。

認知症の帰宅願望が強い場合の対処法

認知症の帰宅願望が強い場合の対処法
帰宅願望が繰り返しみられたり、対応に難しさを感じたりするときは、周囲のサポートを検討することも大切です。

地域の見守りサービスを利用する

自治体が提供する見守りサービスやSOSネットワークに登録しておくと、行方不明になった際に地域全体で早期発見につながりやすくなります。近隣住民や商店との連携も、安全を守るうえで有効な手段の1つです。

地域との繋がりは安全面だけでなく、本人の帰宅願望そのものを軽減する効果も期待できます。近所の保育園で習字を教えるといった地域での役割を持つことで帰宅願望が減少した事例の報告もあり、本人が「地域の一員」として役割を感じられる環境づくりが大切です。

GPS機器の活用を検討する

帰宅願望が強い場合、外出して行方不明になるリスクも高まる可能性があります。

GPS機器を活用することで現在地を確認しやすくなり、家族の不安軽減にもつながるでしょう。靴や持ち物に装着できる小型タイプなど、日常生活に取り入れやすい製品も増えています。

行方不明が起きたときの初動対応や、日頃からできる見守り対策については、以下の記事で詳しく解説しています。

介護サービスの利用を検討する

デイサービスやデイケアを利用することで、日中の活動量が増え、帰宅願望が落ち着く場合があります。また、専門職のスタッフからケアのアドバイスをもらえるため、家族の介護負担の軽減にもつながるでしょう。

介護サービスを利用する際は、本人が「なじみ」と感じられる職員やほかの利用者との関係づくりが重要です。気の合う仲間がそばにいるだけで「ここにいる理由」が生まれ、少しずつ落ち着いていくことがあります。

医療機関や地域包括支援センターに相談する

対応に行き詰まりを感じるときは、医療機関や地域包括支援センターへの相談を検討しましょう。

帰宅願望への対応が遅れると、身体疾患の治療機会を逃すリスクもあります。厚生労働省の調査によると、肺炎で入院治療が必要な状況でも、帰宅願望やひとり歩きが原因で受け入れを断られた事例も明らかになっています。

認知症の進行状況を確認してもらえるほか、地域包括支援センターでは介護に関する相談を無料で受け付けています。専門家と連携することで、本人と家族の双方の負担を軽減しやすくなるでしょう。

認知症の帰宅願望に関するよくある質問

認知症の帰宅願望への対応に悩む家族や介護スタッフからよく寄せられる疑問をまとめました。対応のヒントや制度の活用方法など、現場で役立つ情報をQ&A形式で解説します。

Q1.認知症の帰宅願望はいつまで続きますか?

いつまで続くかは、個人差が大きいため一概には言えません

認知症が進行するにつれて、言葉で訴える力が低下し、行動が目立たなくなることもあるとされています。一方で、長期にわたって続く場合もあります。帰宅願望の頻度や強さが増しているときは、かかりつけ医に相談してみましょう。

Q2.認知症で帰宅願望が強いとグループホームを退去になりますか?

帰宅願望があるだけで退去になるケースは多くありませんが、施設によって対応できる範囲が異なります

帰宅願望が強く、外出して行方不明になるリスクが高い状況などは、施設側と十分に話し合い、対応策を検討することが大切です。

Q3.認知症の帰宅願望は薬で治りますか?

帰宅願望そのものを治療する薬はないとされています。

ただし、不安や焦りを和らげる薬が処方され、状態が落ち着くケースもあります。

Q4.認知症の帰宅願望が「うざい」「めんどくさい」と感じてしまう場合はどうすればいいですか?

対応に疲れ、そのような気持ちになってしまうことは珍しくありません。介護する家族が心身ともに疲弊することは自然なことであり、自分を責める必要はないでしょう。

1人で抱え込まず、デイサービスの利用や介護者向けの相談窓口を活用することで、負担を軽減することも大切です。地域包括支援センターでは、介護者のメンタルサポートに関する相談にも対応しています。

認知症の帰宅願望は本人の気持ちを理解することが大切

認知症による帰宅願望は、見当識障害や記憶障害、環境の変化への不安などが原因として挙げられます。言葉の背景にある気持ちを理解し、否定せず寄り添う対応が基本です。

家族だけでの対応に限界を感じる場合は、医療機関や地域包括支援センターへ早めに相談することが、本人と家族の両方を守ることにつながるでしょう。

また、認知症の基本的な知識を整理しておくと、今後の介護や対応を考える際のヒントになります。下記のページでわかりやすくまとめていますので、あわせてご覧ください。

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監修者 浦上 克哉 教授

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浦上 克哉 教授

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浦上 克哉 教授

日本認知症予防学会代表理事
日本老年精神医学会理事
日本老年学会理事
日本認知症予防学会専門医

1983年鳥取大学医学部医学科卒業

1988年同大大学院博士課程修了

1990年同大脳神経内科・助手

1996年同大脳神経内科・講師

2001年同大保険学科生体制御学講座環境保健学分野の教授(2022年まで)

2016年北翔大学客員教授(併任)

2022年鳥取大学医学部保健学科認知症予防学講座(寄付講座)教授に就任

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