認知症になったら車の運転はできる?危険性や免許のルール、やめさせたいときのコツ5つを解説
「認知症と診断されたけど、まだ運転を続けていいの?」「運転が危なっかしいから親に車をやめさせたいけど、どう伝えればいいかわからない」
そんな悩みを抱えている方は少なくありません。認知症になると、記憶力や判断力の低下によって運転中に重大な事故を引き起こすリスクが高まるとされています。一方で、車がなければ生活できないという切実な事情を抱える方も多く、家族にとっても難しい問題です。
この記事では、認知症と運転の関係や危険性、やめさせたいときのコツなどを解説します。正しく理解することで、本人と家族が納得できる対応のヒントが見つかるでしょう。
目次
認知症と診断されたら車の運転はできるのか

認知症と診断された場合は道路交通法に基づき、聴聞等の手続を経た上で、運転免許の取り消しまたは効力の停止の対象となります。ただし、診断に至るルートによって手続きの流れが異なります。
免許更新時や違反時に「認知症のおそれがある」と判定された場合
「認知症のおそれがある」と判定された場合は、公安委員会から連絡があり、臨時適性検査または医師の診断書の提出が必要です。75歳以上のドライバーは免許更新時に認知機能検査が義務付けられており、その後認知症と診断されれば、聴聞等の手続きを経て免許の取り消しまたは効力の停止を受けることになります。
また、信号無視・進路変更禁止違反・通行禁止違反・安全運転義務違反など一定の違反行為があったドライバーは、更新時期にかかわらず臨時の認知機能検査が求められます。症状が心配な家族は、警察庁が公開しているシートで検査を体験してみてください。
医療機関で認知症と診断された場合
医療機関で認知症と診断された場合は、医師が公安委員会へ任意で届け出るか、家族が自主的に運転免許センターや警察署に相談して手続きを進めることができます。
自主返納すると運転経歴証明書の交付申請ができ、身分証明書として活用可能です。例えば、東京都に在住している70歳以上の方は「東京都シルバーパス」を利用できるなど、多くの自治体でバスやタクシーの運賃割引、レジャー施設の優遇など各種特典を受けられる場合があります。詳しくは運転免許試験場・センターまたは警察署、お住まいの自治体にお問い合わせください。
また、認知症と診断された場合の運転免許証の取り扱いや自主返納の流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
認知症の方にみられる運転の危険サイン

認知症による危険は、日常の運転の中にサインとして現れることがあります。以下のような変化がみられる場合は、早めの対応を検討しましょう。
同じ道で迷うことが増えた
何十年も通い慣れた道なのに「どこを走っているかわからなくなった」と本人が口にするようになったら、注意が必要です。
本人は「いつもの道を走っていたはずなのに、気づいたら知らない場所にいた」と話すこともあり、道に迷ったことへの自覚が薄いケースも多いとされています。
車をぶつけたり擦ったりすることが増えた
駐車場での接触事故や、車体の傷が増えてきた場合も危険サインのひとつです。
「車のバンパーが凹んでいたけど、本人は覚えていない」「車庫入れのたびに壁を擦るようになった」という声は、認知症の方を介護している家族からよく聞かれます。
事故を起こした記憶がなくなるため、本人が「ぶつけていない」と主張することも珍しくありません。修理費用の請求書が届いて家族が初めて気づくというケースもあります。
信号や標識の見落としが増えた
一時停止の標識を無視したり、赤信号に気づくのが遅れたりすることが増えてきたら、見落としが常態化しているサインかもしれません。
「赤信号なのにブレーキを踏まなかった」「一時停止を無視して交差点に入っていった」という体験を話す家族もいます。本人は「ちゃんと見ていた」と言い張る場合が多く、家族との間でトラブルになるケースもあります。
家族が運転に不安を感じるようになった
助手席に座っていて怖いと感じるようになったら、それ自体が重要なサインの可能性があります。
「以前は何も感じなかったのに、助手席に座るたびにシートベルトをぎゅっと握ってしまう」という家族の声もあります。急ブレーキや急ハンドルが多くなったという変化も、見逃してはいけないサインのひとつです。
認知症の方が車を運転する特徴と危険性

危険サインの背景には、認知症の症状が関係している恐れがあります。なぜ認知症の方の運転が危険なのか、症状ごとに解説します。
記憶障害による道迷いや判断ミス
記憶障害がある状態での運転は、走行中に目的地や現在地がわからなくなるため危険です。
「どこへ行くつもりだったか」「さっきどの道を曲がったか」という記憶が抜け落ちてしまうためです。また、確認する行動ができにくくなるため、信号や標識の見落としによる事故につながる恐れがあります。
判断力や注意力の低下による事故リスク
判断力や注意力が低下した状態での運転は、重大な事故に直結する危険があります。
車の運転は周囲の状況を把握しながら、瞬時に判断する必要がありますが、認知症によってこの処理が難しくなるためです。車間距離の判断や右折時の対向車の確認などでミスが増えやすくなるほか、ブレーキとアクセルの踏み間違いも判断力や注意力の低下が関係しているとされています。
見当識障害による現在地の把握困難
今いる場所や進行方向がわからなくなるなど見当識障害がある状態での運転は、急停車や急ハンドルなど予測不能な行動につながるため、周囲を巻き込む危険があります。
時間の感覚も薄れやすくなるため、夜間や悪天候の中でも「まだ大丈夫」と走行し続けてしまうことがあります。
幻視や幻覚などの知覚異常による誤認
幻視や幻聴がある状態での運転は、存在しないものへの反応から急ブレーキや急ハンドルをきることがあり、周囲を巻き込む事故につながる危険があります。
幻視はレビー小体型認知症でみられやすく、道路に人や障害物があるように見えて、急な回避行動をとることがあります。
また、認知症の種類によっては運動機能の低下も運転に影響します。血管性認知症では麻痺によってアクセルやブレーキ、ハンドル操作に支障が出る場合があります。レビー小体型認知症ではパーキンソン症状により動作が遅くなったり反応性が鈍くなったりすることがあり、状況変化への対応が遅れる危険があるため注意が必要です。
認知症で車の運転をやめないときのリスク

運転をやめないことで生じるリスクは、死亡事故や重傷事故につながる危険があります。
国立老年医学研究センターの研究によると、中等度の認知機能低下がある高齢男性の61%が運転をやめていなかったと報告されており、自覚がないまま運転を続けているケースが多いとされています。認知症ドライバーによる重大事故は社会問題にもなっており、被害者だけでなく加害者側の本人もダメージを受けるリスクがあるでしょう。
また、法的・経済的リスクも見逃せません。認知症の方が事故を起こした場合、本人が責任無能力と判断されるケースがあります。しかし、その場合でも家族が自動的に賠償責任を負うわけではありません。
実際には、同居の有無や介護への関与状況、本人の生活をどの程度監督していたかなどを踏まえ、家族に監督義務があったかどうかが判断されます。家族が損害賠償責任を負う可能性もあるため、認知症が疑われる段階で運転継続のリスクについて話し合うことが大切です。
認知症で車の運転をやめさせたいときの5つのコツ

運転をやめてもらうことは、本人のプライドや生活への不安に影響するため、簡単ではありません。軽度の認知症のドライバーは数年間安全に運転を続けられる可能性があるとされており、焦るよりも「思いやりのあるコミュニケーションと患者中心のアプローチ」で段階的に話し合うことが重要とされています。
本人の気持ちに寄り添いながら話し合う
本人の言葉を引用しながら気持ちに寄り添う形で話し合うことが効果的とされています。「危ないからやめて」と頭ごなしに伝えることは逆効果になりやすく、否定されたと感じると強く反発することも少なくありません。
海外の研究でも、運転の安全性について話し合う際には「思いやりのあるコミュニケーション」が不可欠とされています。「帰り道がわからなくなったって言ってたから、もし事故になったら心配だな」というように、本人の体験を引用しながら話すと受け入れてもらいやすくなることがあります。
医師から伝えてもらう
家族からの言葉よりも、医師からの言葉のほうが本人に届きやすい場合もあります。家族から話す場合は、配偶者が伝えてもうまくいかないことがあります。家族の中でも、本人が信頼しており、「この人の言うことなら聞いてみよう」と思えるキーパーソンから話してもらうとよいでしょう。
それでも本人が納得しないときは、医師から運転について伝えてもらう方法があります。認知症が進行しても社会的権威への信頼は残りやすいとされており、「先生に言われたから」という理由で納得するケースもあります。
受診前にかかりつけ医へ「運転について話してほしい」と事前に伝えておくことがポイントです。また、警察や市区町村の窓口、地域包括支援センター、ケアマネジャーに相談することで話し合いがスムーズに進む可能性があります。
運転できない状況をつくる
話し合いだけでは解決しない場合は、物理的に運転できない環境をつくることも選択肢のひとつです。
車のキーを見つからない状態にしておく、「修理に出している」という理由で車を一時的に預ける、といった方法が取られることがあります。
ただし、この方法は本人が強い不満を抱える場合もあるため、他の方法と組み合わせながら慎重に進めることが大切です。
運転経歴証明書のメリットを伝える
運転経歴証明書のメリットを伝えることで、自主返納を前向きに検討してもらいやすくなることがあります。免許を失うという喪失感ではなく、新しい証明書を得るという前向きな伝え方が効果的です。
「返納したら〇〇のバスが半額になるよ」など、生活に合ったメリットを伝えると、納得してもらいやすくなるでしょう。
移動手段の代替策を一緒に考える
「車がなくなったら生活できなくなる」という不安を取り除くことが、運転をやめてもらうためのポイントです。
タクシーや福祉有償運送サービスの使い方を一緒に調べたり、「病院への送迎は私がするから」という家族による定期的な送迎の仕組みをつくったりすることで、「運転しなくても生活できる」という安心感を持ってもらいやすくなります。
認知症の方が運転をやめない場合の相談先

認知症の方が運転をやめず対応に困った場合は、以下の相談先を検討してみましょう。
- かかりつけ医
- 地域包括支援センター
- 警察への相談
かかりつけ医に受診する前に「運転について話してほしい」と事前に伝えておくことで、診察の場で医師から「運転は控えてください」と伝えてもらえる場合があります。地域包括支援センターでは、家族からの介護相談を無料で受け付けています。運転問題に限らず、認知症ケア全般についてのアドバイスをもらえるでしょう。
また、警察への相談は、運転をやめないことで事故の危険が切迫している場合の選択肢です。運転免許センターや警察署の安全運転相談窓口では、認知症ドライバーに関する相談に対応しています。
認知症で車の運転をやめた後の生活支援

運転をやめた後の生活をどう支えるかは、本人の尊厳や生活の質に直結します。
移動手段を確保する
運転をやめた後も、移動手段を確保することで日常生活を維持できます。
自治体が提供する移動支援サービスや乗合タクシーの活用のほか、介護保険を利用した通院・外出支援サービスも選択肢のひとつです。
地域によっては、NPO法人が運営する福祉有償運送や民間のシニア向け送迎サービスも利用できるでしょう。まずは地域包括支援センターに相談すると、利用できるサービスを案内してもらえます。
外出機会を失わないための工夫
運転をやめた後も、外出機会を意識的に確保することが認知症の進行を遅らせるうえで重要とされています。
例えば、デイサービスを活用することで外出機会を定期的に確保できるほか、「誰かと会う・話す・動く」という習慣を保つことが社会参加の維持につながります。
近所への買い物や散歩など車を使わない外出習慣をつくることも、生活リズムを保つうえで効果的でしょう。
認知症と車の運転に関するよくある質問
認知症と車の運転に関して、家族からよく寄せられる疑問をQ&A形式でまとめました。対応に迷ったときの参考にしてください。
Q1.軽度認知障害(MCI)の場合は運転できますか?
MCIの段階では、直ちに免許が取り消されるわけではありません。
ただし、記憶力や判断力の低下が運転に影響している可能性があるため、医師に運転の可否について相談することが大切です。MCIは認知症へ移行するリスクがあるとされており、定期的な経過観察が必要です。
Q2.認知症の方が勝手に運転した場合、家族に責任はありますか?
状況によっては、家族が監督責任を問われる可能性があります。
認知症であることを知りながら運転を黙認していたと判断された場合、事故時に家族が損害賠償責任を負うケースがあります。「止めようとしたが聞かなかった」では免責されないこともあるため、鍵の管理や車の処分など対策を講じておくことが重要です。
Q3.車の運転をやめた後、認知症が進行しやすくなりますか?
運転をやめた後に外出や社会参加が減ることで、認知機能の低下につながる可能性が指摘されています。
日本の高齢者を対象とした研究では、自動車運転に従事している高齢者は認知症の発症率が有意に低いことが示されています。
ただし、同研究では日常会話や買い物、野外作業なども認知症発症率の低下と関連していたと報告されており、運転をやめた後も「話す・外出する・体を動かす」習慣を意識的に続けることが大切です。
認知症と車の運転は早めの対応が大切
認知症による運転リスクは、本人だけでなく周囲の人の命にも関わる問題です。危険サインに早めに気づき、ルールを理解したうえで対応することが事故を防ぐことにつながります。
「同じ道で迷うことが増えた」「駐車のたびに車を擦るようになった」など、変化を感じた時点でかかりつけ医や地域包括支援センターへ相談することが大切です。運転をやめた後の生活支援まで含めて家族で話し合っておくことが、本人の尊厳を守りながらスムーズな移行につながるでしょう。
また、認知症についての基本的な知識を整理しておくと、運転問題に限らず今後の介護や対応を考える際のヒントになります。下記のページでわかりやすくまとめていますので、あわせてご覧ください。
【参考文献】
e-Gov 法令検索:道路交通法
警察庁:認知機能検査について
警察庁:認知機能検査 Q&A
一般社団法人 東京バス協会:東京都シルバーパスのご案内
レビー小体型認知症家族を支える会:レビー小体型認知症介護ガイドブック
PubMed.Driving continuity in cognitively impaired older drivers
日老医誌:1.認知症患者の自動車運転 馬塲 2016;53:216―221.
PubMed.Driving and dementia: Efficient approach to driving safety concerns in family practice
PubMed.Lifestyle activities and the risk of dementia in older Japanese adults
監修者
浦上 克哉 教授
監修者
浦上 克哉 教授
日本老年精神医学会理事
日本老年学会理事
日本認知症予防学会専門医
1983年鳥取大学医学部医学科卒業
1988年同大大学院博士課程修了
1990年同大脳神経内科・助手
1996年同大脳神経内科・講師
2001年同大保険学科生体制御学講座環境保健学分野の教授(2022年まで)
2016年北翔大学客員教授(併任)
2022年鳥取大学医学部保健学科認知症予防学講座(寄付講座)教授に就任
