認知症で同じものを買うのはなぜ?原因や家族の5つの対策、受診の目安を解説
「認知症の親がまた同じものを買ってきた。どう対応すればいいの?」「冷蔵庫に同じ食品が何個も並んでいて、いつも無駄になってしまう」
そんな悩みを抱えている家族の方は少なくありません。認知症になると、買ったことを忘れたり、家の在庫を把握できなくなったりするため、同じものを購入してしまうことがあります。本人に悪気はなく、どう対応すればよいか頭を抱えるケースもあるのが現状です。
この記事では、認知症で同じものを買ってしまう原因と、家族が実践できる対策を5つご紹介します。なぜこのような行動が起きるのか理解でき、無理なく対応できるようになるでしょう。
目次
認知症の人が同じものを買うのはなぜ?よくある症状

認知症になると、買い物の場面でさまざまなトラブルが起きやすくなります。認知症が買い物にどのように影響するのかを確認しましょう。
認知症では買い物に関するトラブルが起こりやすい
認知症になると、買い物に必要な記憶力や判断力が低下することがあります。
「何を買うべきか思い出せない」「家にある物かどうかわからない」といった状態になるため、買い忘れや重複購入などのトラブルにつながります。
実際に、国民生活研究では、認知症や軽度認知障害(MCI)の方の約3割に重複買いや不要な商品の購入などの買い物の失敗がみられました。
このような買い物のトラブルは、家族が「何かおかしい」と気づくきっかけになることも少なくありません。日常的な行動だからこそ、変化に気づきやすい場面でもあります。
同じものを何度も買うのは初期段階からみられることもある
厚生労働省の若年性認知症ガイドブックでも、「買い物に行って同じものを何度も買う」「冷蔵庫にあるものをまた買う」といった行動が、認知症の気づきのポイントとして挙げられています。同じものを繰り返し買う行動は、認知症の初期段階からみられることがある症状のひとつです。
ただし、この行動だけで認知症と断定することはできません。加齢によるもの忘れや、別の病気が原因の場合もあります。気になる場合は、ほかにも気になる症状がないか、日常の様子をあわせて観察してみましょう。
認知症の人が同じものを買う原因

同じものを繰り返し買ってしまう行動には、いくつかの異なる原因が絡み合っている可能性があります。原因を正しく知ることが、適切な対応につながります。
買ったこと自体を忘れてしまうため
認知症では、短期記憶(直近の出来事を覚える力)が低下することがあります。
そのため、「さっきスーパーで醤油を買った」という記憶が残りにくく、「まだ買っていない」と思い込んで再び購入してしまいます。
食品や洗剤などの日用品は購入頻度が高いため、このようなトラブルが起こりやすいです。
家にある在庫を覚えていないため
冷蔵庫や棚の中に何があるかを把握できなくなることも原因のひとつです。
「家にあるかどうかわからないから、とりあえず買っておこう」という行動から、同じ商品が家に増えるという状況になりがちです。
判断力が低下しているため
認知症が進むと、「今、必要かどうか」を正しく判断することが難しくなる傾向にあります。
スーパーの特売コーナーやお得という言葉に反応して、必要のない商品でも購入してしまうこともあるでしょう。品数の管理も難しくなるため、気づけば同じ商品が大量にたまっていることも珍しくありません。
安心できる商品を選び続けるため
認知症になると、慣れ親しんだ商品ばかりを選び続ける様子がみられます。
新しい商品を選ぶこと自体が負担になりやすく、いつもと同じ商品に安心感を覚えるためです。この行動自体は問題ではありませんが、結果として同じ商品が大量にたまることにつながる場合もあります。
同じ行動を繰り返す症状が現れるため
認知症では、同じ行動を繰り返す「常同行動(じょうどうこうどう)」が現れることがあります。
毎日決まった時間に同じ店へ行く行動がパターン化すると、その都度同じ商品を購入してしまうため同じものが増えがちです。特に、前頭側頭型認知症や意味性認知症では、この症状が強くみられることがあるとされています。
※意味性認知症とは「言葉の意味がわからなくなり、名前が出てこなくなる認知症」のこと
同じものを買う場合にみられる認知症以外の原因

同じものを繰り返し買う行動は、必ずしも認知症だけが原因とは限りません。認知症との違いを正しく理解することで、適切な対応や受診の判断につなげられます。
加齢によるもの忘れ
加齢によるもの忘れでも、同じものを繰り返し買ってしまうことがあります。
年齢を重ねると記憶力が少しずつ低下し、買ったかどうかの記憶が曖昧になるため、「念のため買っておこう」という判断につながりやすくなります。
「そういえば昨日買ったよ」と伝えると「ああ、そうだったね」と思い出せる場合は、加齢によるもの忘れの可能性が高いでしょう。一方、認知症では買ったという出来事を覚えていないため、ヒントを伝えても思い出せないケースが多いとされています。
軽度認知障害(MCI)
認知症の一歩手前の状態である軽度認知障害(MCI)でも、同じものを繰り返し買うことがあります。
日常生活はほぼ自立して送れるものの、記憶力の低下により購入した事実や家の在庫を把握しにくくなるため、同じものを買ってしまう場合があります。
MCIと認知症の違いを理解する際に、下記の記事を参考にしてみてください。
うつ病などの影響
うつ病などの影響で、認知症に似た症状が現れ、同じものを買ってしまうことがあります。
うつ病では意欲や集中力が低下するため、買い物中に判断力が鈍り、すでに家にあるものを確認せずに購入してしまうケースも見受けられます。
認知症で同じものを買うときに家族が取るべき5つの対策

認知症で同じものを買うことを完全になくすことは難しいですが、工夫次第でトラブルを減らすことはできます。今日から実践できる対策を紹介します。
頭ごなしに否定せずに不安を和らげる
同じものを買っても、本人を否定しないことが大切です。
「また同じものを買ってきた!」と責めたくなる気持ちはわかりますが、頭ごなしに否定することは逆効果です。責められることで本人はパニックになったり、強い不安を感じたりして、症状が悪化することもあります。
「大丈夫だよ、家にあるから次は買わなくていいよ」というように穏やかに声をかけ、本人の自尊心を傷つけないようにすることを心がけましょう。
家族が付き添いながら買い物をサポートする
家族が買い物に付き添うことで、購入済みの商品を確認しながら買い物を進められるため、重複購入を予防できる可能性があります。
このとき、事前に買い物リストをチェックリスト形式で作っておくと効果が期待できます。「今日買うものはこれだけ」と目で確認できるようにしておくと、本人も安心して買い物ができるでしょう。
買う前に立ち止まれるような仕組みを作る
一人で買い物に行く場合は、あらかじめ仕組みで対策しておくことが有効です。
- 冷蔵庫や収納棚に「在庫表」を貼っておく
- 財布や買い物バッグに「家にあるものリスト」のメモを入れておく
- 何か買う前に家族へ電話で確認する習慣をつくる
本人が「確認してから買う」という行動を自然にとれるように、環境を整えることが大切です。
お店や地域の支援を活用する
家族だけで抱え込まず、地域の支援を活用する方法もあります。
地域によっては、スーパーや薬局などが認知症の方を見守るサービスを提供している場合があります。また、地域包括支援センターに相談すると、家族の負担を軽くするために支援してもらえるでしょう。
金銭管理のサポートを検討する
買い物トラブルが続く場合は、金銭管理のサポートを検討しましょう。
- 財布に入れる現金を必要最低限にする
- 家計全体を家族が管理する
- 判断力の低下が著しい場合は成年後見制度を利用する
成年後見制度とは、判断能力が不十分な方を法的に支援する制度です。詳しくは市区町村の窓口や社会福祉協議会に相談してみてください。
認知症で同じものを買うときの対応方法【事例】

実際の場面でどう対応すればよいかを知っておくと、いざというときに慌てずに済みます。2つの事例をもとに対応方法を紹介します。
通販での買い物の場合は受け取りを拒否する
インターネット通販やテレビショッピングで同じ商品を何度も注文してしまうケースには、商品が届いた際に受け取りを拒否できる(返品する)可能性があります。
また、根本的な対策として、スマートフォンで通販サイトにアクセスできないようにする他、クレジットカードの利用を止めたり、定期購入の解除を確認したりすることも検討しましょう。
冷蔵庫に同じ食品が大量にある場合は買い物リストを作成する
同じ食品が冷蔵庫に何個も入っている場合、冷蔵庫の扉に「今日買うもの・買わなくていいもの」の一覧表を貼ることは効果が期待できます。
出かける前に本人が自分で確認できるようにすると、一人での買い物でも重複購入を防ぎやすくなります。
病院を受診したほうがよいケース

「どのタイミングで病院に連れて行けばいいのか」と悩む方も多いでしょう。受診の目安となるサインを知っておくことで、早期対応につなげることができます。
買い物トラブルが増えている
以下のような状況が続く場合は、医療機関に相談することをおすすめします。
- 重複購入が週に何度も起きている
- 高額な商品を繰り返し購入してしまっている
- 買い物によって家計への影響が出ている
買い物トラブルは、認知症のサインである可能性があります。早期に対処することで、本人と家族の生活を守ることにつながるでしょう。
家族の負担が大きくなっている
家族が心身ともに疲弊している場合は、専門家への相談を検討するサインと言えるでしょう。
対応をめぐって家族間の関係が悪化していたり、介護が原因で日常生活に支障が出ていたりする場合も同様です。専門家の支援を求めることは恥ずかしいことではありません。
認知症以外の病気の可能性もある
同じものを繰り返し買うという行動の背景に、うつ病や脳の病気が隠れていることもあります。医療機関を受診することで原因を特定でき、治療につながる可能性があります。
まずはかかりつけ医や専門の医療機関に相談してみましょう。
認知症で同じものを買うことに関するよくある質問
認知症による繰り返し購入に関して、家族からよく寄せられる疑問にお答えします。
Q1.認知症で買い物したがるのはなぜですか?
買い物は「目的を持って外出する」「自分で選んで決める」といった要素があり、本人にとって達成感や自立心を感じられる活動です。
認知症になっても、買い物への意欲が残っているケースは多くあります。無理にやめさせるのではなく、安全に買い物ができる環境を整えることが大切です。
Q2.認知症の親の買い物をやめさせたい場合はどうすればいいですか?
「買い物をやめさせる」という方向よりも、「安全に買い物できる仕組みをつくる」という考え方のほうが本人のストレスを減らせるかもしれません。
家族の付き添い、買い物リストの活用、持ち歩く現金を減らすなどの工夫を組み合わせてみましょう。
Q3.認知症の人が大量に買い物をするのは買い物依存症ですか?
認知症による重複購入は、買い物依存症とは異なるものです。
買い物依存症は「買うことで気分が高揚する」という心理的な依存ですが、認知症による重複購入は「買ったことを忘れる」「判断力が低下する」ことが原因です。
Q4.認知症の人が同じものばかり食べたがるのはなぜですか?
前述の「安心できる商品を選び続ける」と同じ理由で、慣れ親しんだ食べ物は安心感をもたらします。
また、認知症では味覚や食欲の変化が起こることもあり、特定の食べ物への執着が強まるケースがあります。食事の偏りが気になる場合は、かかりつけ医や管理栄養士に相談しましょう。
Q5.認知症による重複購入を放置するとどうなりますか?
認知症による重複購入を放置すると、家計への負担が大きくなるだけでなく、高額商品の購入や悪質商法の被害につながる恐れがあります。
また、症状の進行によって金銭管理が難しくなり、家族の介護負担が増えることもあります。重複購入が頻繁にみられる場合は、早めにかかりつけ医や地域包括支援センターへ相談することが大切です。
認知症による買い物の悩みは早めの相談が大切
認知症の人が同じものを繰り返し買ってしまうのは、本人がわざとやっているわけではなく、記憶力や判断力の低下が原因の1つです。責めたり否定したりすることは逆効果になるため、仕組みで対応することが基本となります。
家族だけで抱え込まず、地域包括支援センターや医療機関などの専門家に早めに相談することが、本人と家族の両方を守ることにつながります。
また、認知症の基本的な知識を整理しておくと、買い物トラブルに限らず、今後の介護や生活環境の見直しを考える際のヒントになるでしょう。下記のページでわかりやすくまとめていますので、あわせてご覧ください。
【参考文献】
政府広報オンライン:知っておきたい認知症の基本
国民生活研究第 61 巻第 1 号(2021 年):高齢者の購買行動と認知機能の関連 樋山ら
厚生労働省:若年性認知症支援ガイドブック
厚生労働省:認知症ケア法-認知症の理解
厚生労働省:買い物依存症(用語解説)

