民法第877条では、親などの直系親族への扶養義務を定めています。例えば、親が高齢化して自立した暮らしが難しくなった場合、子どもは親の介護をしなければなりません。
しかし、親の介護はさまざまなトラブルや家庭問題のきっかけとなります。
本記事では、親の介護をめぐるよくあるトラブル事例や、親の介護をするときに注意したいポイントを解説します。
親の介護に関するよくあるトラブル事例
親が高齢化した場合、介護問題をきっかけとしてさまざまなトラブルが起きることがあります。例えば、以下のような事例です。
- 誰が介護をするかで人間関係のトラブルに発展した
- 介護費用の負担が大きく、経済的に困窮した
- 介護疲れやストレスが原因で、介護うつを発症した
事前に何の準備もせず親の介護が必要になった場合、兄弟姉妹や配偶者の誰が介護をするのか、意見の対立が生まれる可能性があります。家庭内で介護をせず介護サービスを利用する場合も、誰が費用を負担するのかを話し合って決めなければなりません。また、近年注目を集めているのが、介護疲れやストレスが原因となった「介護うつ」の問題です。老老介護のように、介護者の心身に大きな負担がかかり、介護者自身が要支援・要介護の状態になってしまうケースも少なくありません。
親の介護に関するトラブルを防止するには、関係者同士の話し合いと、事前の準備の2点が大切です。次の項目で、親の介護に関するトラブルを防止する方法を紹介していきます。
親の介護における5つの注意ポイント
親の介護で悩まないため、以下の5つのポイントを意識しましょう。
- 介護はなるべく分担する
- 介護に完璧を求めず、無理のない範囲でケアする
- 親と適度な距離感を維持する
- 早い段階から介護費用を準備する
- 介護保険を賢く活用する
初めての介護の場合、一人でなんでもやろうと頑張りすぎてしまうことがあります。現行の法律では、親子の縁を切る手段がなく、親の介護は生涯に渡ってつづいていきます。親の希望も聞きながら、無理せず自分のペースで介護に取り組みましょう。また、兄弟姉妹で介護を分担したり、介護保険サービスを活用したりと、自分以外の協力を求めることも大切です。
1. 介護はなるべく分担する
親の介護は一人で抱え込むのではなく、配偶者や兄弟姉妹と分担することが大切です。一人での介護(ワンオペ介護)は心身の負担が大きく、介護疲れや介護うつの原因となります。親が要支援・要介護の認定を受けたら、家族で話し合って介護の分担を決めることが大切です。
2. 介護に完璧を求めず、無理のない範囲でケアする
日本人の平均寿命は年々延びており、親の介護をする期間も長くなっています。「親を少しでも楽にしてあげたい」「できる限りのことをしてあげたい」という気持ちは大切ですが、常に全力投球では長続きしません。特に要介護度が5の場合、56.7%の人が「ほとんど終日」の介護を強いられます。[注1]
親の介護をするときは、完璧を求めるのではなく、無理なく自分のペースで行いましょう。
3. 親と適度な距離感を維持する
また、親の介護で多い失敗が、親を心配するあまり過剰な干渉をしてしまうケースです。要支援・要介護の認定を受けても、親が自分でできることはまだまだあります。
例えば、足腰が弱ったり、歩行が困難になったりしても、まだ食事は自分でできるかもしれません。介護にのめり込みすぎて、必要のない介助をしてしまうと、高齢化した親の身体機能はどんどん低下していきます。親と適度な距離感を維持し、あれもこれもと世話を焼きすぎないことが、長く介護をつづけるコツです。
4. 早い段階から介護費用を準備する
前述のとおり、介護に関するトラブルで多いのが、介護費用などの金銭トラブルです。将来の介護に備えて、早い段階から介護費用を準備しておきましょう。
生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(令和3年)」によると、毎月の介護費用の平均は、在宅介護で4.8万円、施設介護で12.2万円です。[注2]
種別 | 支払った費用はない | 1万円未満 | 1万~2万5千円未満 | 2万5千~5万円未満 | 5万~7万5千円未満 | 7万5千~10万円未満 | 10万~12万5千円未満 | 12万5千~15万円未満 | 15万円以上 | 不明 | 平均 |
在宅 | 0.00% | 7.20% | 22.30% | 17.60% | 13.30% | 2.30% | 4.30% | 1.20% | 5.80% | 26.00% | 4.8万円 |
施設 | 0.00% | 0.40% | 6.30% | 4.70% | 9.10% | 8.70% | 20.90% | 7.90% | 30.70% | 11.40% | 12.2万円 |
また、介護を始めるときの一時費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など)として、平均74万円の出費が発生します。早い段階から貯蓄を行い、介護費用を準備しておくことで、親の介護の経済的負担を軽減できます。
[注2]生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」P41-42
5. 介護保険を賢く活用する
介護費用に関するトラブルを防止するため、介護保険制度を賢く利用しましょう。介護保険が適用されるサービスを利用すれば、介護費用の自己負担額を1割から3割に抑えることができます。
ただし、介護保険制度は、親が要支援または要介護の認定を受けていないと利用できません。また、訪問介護や訪問リハビリテーションなどの居宅サービスは、毎月の利用限度が設定されており、介護保険の範囲内で利用する必要があります。親の介護に当たって、まず介護保険制度の仕組みを知っておくことが大切です。
親の介護を自分でするのが難しいときの対処法
経済的な困窮や、仕事で介護の時間がとれないといった理由により、親の介護が難しいケースもあります。その場合は、以下の2つの方法で対処しましょう。
- 老人ホームの利用を検討する
- 地域包括支援センターに相談する
自力での介護ができない場合、老人ホームに入所してもらうことも考えましょう。特別養護老人ホームや軽費老人ホーム(ケアハウス)など、介護保険制度が適用される施設なら、老人ホームの利用料もそれほどかかりません。
また、介護についての不安がある場合は、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談することをおすすめします。親との接し方や、介護疲れに関する悩み、親の身体状況に合わせたケアの仕方、地域の老人ホーム探しのポイントまで、豊富な知識を持つ専門家のアドバイスを受けられます。
【まとめ】親の介護で悩まないため、5つのポイントで将来の準備を
親の介護は子どもの負担が大きく、さまざまな家庭問題のきっかけとなることがあります。親の介護に完璧を求め、一人で頑張ろうとすると介護疲れや介護うつの原因となるため、適度な距離感を維持することが大切です。また、介護費用の負担を抑えるため、早い段階から資金を準備したり、介護保険制度を活用したりしましょう。
親の介護を自分でするのが難しい場合は、老人ホームに入居してもらう方法もあります。親の希望を聞きながら、予算や条件に合った老人ホームを探しましょう。老人ホームを探すときは、「あなたらしく」を利用するのがおすすめです。