介護保険制度は「公的介護保険」とも呼ばれ、将来介護が必要になったときに備えて、所定の介護保険料を納める仕組みです。要介護または要支援の認定を受けた場合、在宅サービス、地域密着型サービス、施設サービスなど、さまざまな介護サービスを利用することができます。
本記事では、介護保険制度の仕組みや自己負担の金額、主なサービス内容をわかりやすく解説します。
介護保険制度とは?制度の仕組みや自己負担について解説
内閣府の令和4年版高齢社会白書によると、65歳以上の人の要介護者等数(要介護または要支援の認定を受けた人のこと)は年々増えています。要介護者等の人数は令和元年度に655.8万人に達し、平成21年度の469.6万人から186.2万人増加しました。[注1]
一方、核家族化の進行や老老介護の増加によって、介護する家族の負担も大きくなっています。こうした問題を解決する仕組みが、市町村が運営母体となって介護の負担を軽減する「介護保険制度」です。
介護保険制度は、2000年施行の介護保険法によって創設された制度です。[注2]
介護保険制度とは、介護や支援が必要な要介護者等を対象として、介護サービスの利用にかかる費用の一部を給付する仕組みです。保険制度の一種であるため、給付する保険料は国民全体で負担します。
日本では、40歳から介護保険への加入が義務づけられ、加入している健康保険料などと合わせて介護保険料が徴収される仕組みになっています。
介護保険制度の3つの柱
厚生労働省によると、介護保険制度には3つの柱があります。[注2]
自立支援 | 単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということを超えて、高齢者の自立を支援することを理念とする |
利用者本位 | 利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス、福祉サービスを総合的に受けられる制度 |
社会保険方式 | 給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用 |
介護保険制度の目的は、単に要介護者や要支援者の身の回りの世話をすることではありません。在宅サービス、地域密着型サービス、施設サービスなど、さまざまな種類のサービスのなかから、利用者自身が自分に合ったものを選び、自立に向けた支援を受けられる仕組みが介護保険制度です。
また、年金制度などと同様に社会保険方式を採用しており、所定の介護保険料を納めていない人は、将来給付を受けられなくなります。
第1号被保険者と第2号被保険者の違い
介護保険制度では、被保険者の種類によって扱いが異なります。介護保険の加入者で、65歳以上の人のことを「第1号被保険者」、40~64歳の人のことを「第2号被保険者」といいます。
第1号被保険者の場合、要介護状態になった原因にかかわらず、介護保険料の給付を受けることが可能です。
しかし、第2号被保険者の場合は、厚生労働省が定める16疾病(特定疾病)によって要介護状態になった場合に限り、給付を受けることができます。[注3]
- がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折をともなう骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節または股関節に著しい変形をともなう変形性関節症
介護保険制度の自己負担
現行の介護保険制度では、原則1割の自己負担で、さまざまな介護サービスを利用することが可能です。ただし、前年度の所得に応じて、自己負担の割合が2割か3割になる場合があります。
介護サービスを利用するときの自己負担割合をまとめた表は以下のとおりです。[注4]
本人の合計所得金額 | 本人および同じ世帯にいる第1号被保険者の人の年金収入+その他の合計所得金額 | 自己負担割合 | ||
第1号被保険者(65歳以上)
|
220万円以上
|
単身世帯 | 340万円以上 |
3割
|
2人以上世帯 | 463万円以上 | |||
それ以外 | 2割 | |||
160万円以上220万円未満
|
単身世帯 | 280万円以上 |
2割
|
|
2人以上世帯 | 346万円以上 | |||
それ以外 | 1割 | |||
160万円未満 |
1割
|
|||
住民税非課税者 生活保護受給者 |
||||
第2号被保険者(40~64歳) | 1割 |
本人の合計所得金額だけでなく、同じ世帯にいる人の合計所得金額も関わってくるため、自己負担割合を正確に把握しましょう。
介護保険制度で受けられるサービス内容
公的介護保険に加入すると、在宅サービス、地域密着型サービス、施設サービスなど、利用者本人の希望に応じてさまざまなサービスを利用できます。
生命保険文化センターによると、介護保険制度を通じて利用できる主な介護サービスは以下のとおりです。[注4]
サービスの種類 | 内容 | |
在宅サービス
|
訪問介護 | ホームヘルパーが家庭を訪問し、排泄の介助などの身体介護や調理・洗濯・掃除などの生活援助をしてくれる |
訪問入浴介護 | 浴槽を積んだ巡回車などが家庭を訪問し、家庭で入浴の介助をしてくれる | |
訪問看護 | 症状が安定したあと医師の指示のもと、看護師や保健師が家庭を訪問し、療養上の世話や診療の補助などをしてくれる | |
通所介護(デイサービス) | デイサービスセンターなどに通い、生活指導、日常生活訓練、健康チェックや入浴、機能訓練などを受けられる | |
通所リハビリテーション(デイケア) | 老人保健施設や病院・診療所などに通って、理学療法士や作業療法士などから、入浴、機能訓練などを受けられる | |
福祉用具貸与 | 車いすや特殊寝台、移動用リフト、歩行支援具など、自立を支援するための用具を支給限度額の範囲内でレンタルできる | |
特定福祉用具購入費・住宅改修費の支給 | レンタルに対応できない福祉用具の購入費(年間10万円限度)や、段差解消など住宅改修費(原則20万円限度)が支給される | |
地域密着型サービス
|
夜間対応型訪問介護 | 夜間の定期的な巡回訪問、夜間の通報による随時の訪問があり、排泄、食事の介護、その他の日常生活上の世話をしてくれる(※要支援1、2は利用不可) |
認知症対応型通所介護 | デイサービスセンターなどで認知症に配慮した介護や機能訓練を受けられる | |
小規模多機能型居宅介護 | 地域の小規模施設で、通所サービスを中心に事業所での宿泊や、自宅への随時の訪問サービスを組み合わせて受けられる | |
施設サービス
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介護老人福祉施設への入所(特別養護老人ホーム) | 常に介護が必要で、在宅では介護が困難な人を対象とし、日常生活上の世話、機能訓練を行う施設 |
介護老人保健施設への入所 | 症状が安定した人が、看護や医学的管理のもとで介護・機能訓練など受け、在宅復帰を目指す施設 | |
介護療養型医療施設への入所 | 急性期の治療を終え、慢性疾患などにより長期療養を必要とする人が医療や介護、日常生活上の世話を受ける病院 | |
介護医療院への入所 | 慢性疾患などにより長期療養を必要とする人が、医療・介護、日常生活上の世話を受ける施設 |
介護保険制度を利用するまでの流れ
介護保険制度を利用するには、要支援認定か要介護認定を受ける必要があります。支援や介護が必要になったら、まずお住まいの地域の市区町村の窓口(地域包括支援センター)で手続きをしましょう。[注5]
申請手続きには、医師の所見が書かれた「主治医意見書」が必要です。また、65歳以上の人の場合、市区町村から送られる介護保険被保険者証も携行しましょう。
市区町村は必要な介護の量を判定するため、認定調査を実施します。自治体にもよりますが、認定結果は遅くとも申請から30日以内に出ることが一般的です。
その後、必要に応じてケアマネージャー(介護支援専門員)と相談しながら、希望する介護サービスの内容や頻度などを決めていきます。
【まとめ】介護保険制度の仕組みを理解して有効活用しよう
介護保険制度は、在宅サービス、地域密着型サービス、施設サービスなど、さまざまな介護サービスを利用できる制度です。原則1割の自己負担で、希望する介護サービスを利用できます。
介護保険制度の仕組みや、受けられるサービスの種類、自己負担割合の決め方を知り、有効活用しましょう。自分に合った老人ホームを選ぶ際には、「あなたらしく」をご利用ください。